個人でAVを制作する同人AVが流行っています。

その際に気をつけなければいけないのが、令和4年に施行された「AV出演被害防止・救済法」、いわゆるAV新法の存在です。

正式名称は、「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」です。
長いので本記事では「AV新法」で統一します。

本記事ではAV新法の概要、そして同人AVとの関係を風営法専門の行政書士が解説します。

【AV新法】AV出演被害防止・救済法とは?

令和4年6月23日に施行された法律です。
内容はAV出演の契約に関して規定したもので、主にAV出演者(女優・男優等)を保護するための法律となっています。

以下が条文の構成。

第1章 総則(第1条 - 第3条)
第2章 出演契約等に関する特則
第1節 締結に関する特則(第4条 - 第6条)
第2節 履行等に関する特則(第7条 - 第9条)
第3節 無効、取消し及び解除等に関する特則(第10条 - 第14条)
第4節 差止請求権(第15条)
第3章 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例(第16条)
第4章 相談体制の整備等(第17条 - 第19条)
第5章 罰則(第20条 - 第22条)
附則

立法趣旨が出演者保護なので、一貫して出演者にとって有利でAV製作者にとってはかなりの負担が強いられる法律となっています。

AV製作者の義務は、契約書と説明書面の交付

AV新法により、AV製作者が負うべき義務はざっと以下の2つになります。

1. AV出演に関する契約書の交付
2. AV出演に関する説明義務(説明書面の交付)

順番に解説していきます。

1. AV出演に関する契約書の交付

口約束だけでAV出演契約を取り交わすことは不可になり、必ず契約書面を作成しなければいけません。
契約書に必ず記載しなければいけない事項は以下です。

  出演者(女優さん)が当該性行為映像制作物に出演すること
・   撮影を予定する日時及び場所
・  撮影の対象となる出演者の性行為に係る姿態の具体的内容
・  出演者の性行為の係る姿態の相手方を特定する事項(相手の男優さんの名前など)
・  当該性行為映像制作物の公表の具体的方法及び期間
・  当該性行為映像制作物の公表を行うものが制作者以外の場合、その者を特定するための事項(氏名、名称等)
・  出演者の報酬額と支払いを受ける時期
・  当該性行為映像制作物の頒布又は上映を行う国名又は地域名
AV新法第四条、施行規則第二条

以上が記載必須事項になります。

2. AV出演に関する説明義務(説明書面の交付)

法第五条に説明義務が規定されており、この説明も書面又は電磁的記録により行わなければいけません。
説明しなければいけない内容は前述した契約書必須記載事項などです。
そのほか詳細はこれから紹介するAV新法で気をつけるべきポイントと重複するので、XCREAMさんが弁護士監修の元作成した説明書面案を参考にしてください。

参考: 【AV新法に関連する出演契約書等の参考ひな形を作成しました。】

AV新法で気をつけるべき7つのポイント

AV製作者が気をつけなければいけないAV新法のポイントが以下の7つです。

1. 出演契約は作品ごとにしなければいけない

出演契約は作品ごとにしなければいけません(第四条)。
なので、新しい作品を作るたびに契約書と説明義務に関する書面を交付する必要があります。

2. 撮影は契約を交わした1ヶ月後でないと行えない

AVの撮影は、契約書・説明書面等の交付をした日から1ヶ月を経過した後でないと行えません(第七条)。

3. 撮影終了から4ヶ月経たないと作品の公開できない

AVの公開は撮影が全て終了した日から4ヶ月経たないと公開できません(第九条)。
つまり、法第七条と第九条の存在により、契約書面の交付から最短でも5ヶ月は作品の公開ができないことになります。

4. 出演者は任意に契約を解除できる

出演者は契約を交わしていても1年以内であれば任意に契約を解除できます(第十三条)。
任意解除なので理由は問わず無条件に解除できます。
加えて、製作者は任意解除に伴う損害賠償請求をすることができません(第十三条三項)。

5. 出演者に不利な契約は無効

「撮影に遅刻したら罰金〇〇円」や、「動画が流出しても制作者は責任を負わない」等の出演者にとって不利な条項は無効です(第十条二項)。

6. 撮影された映像を確認させなければいけない

制作者は作品を公開する前に出演者に作品の映像を確認する機会を与えなければいけません(第八条)。

7. 罰則規定

出演者の任意解除を防ぐために不実のことを告げたり、出演者を威迫するなどを行った場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はこれを併科されます(第二十条)。

説明書面、契約書面を交付しなかった、又は虚偽の記載をして交付した場合は6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、又はこれを併科されます(第二十一条)。

同人AVの制作でもAV新法は適用されます

個人で制作するいわゆる同人AVでもこのAV新法は適用されます。
なので、しっかり契約書を巻き、撮影開始日時、公開日時等のルールを守り制作しなければなりません。

前述した通り、出演者(女優さん等)は1年以内ならいつでも契約を任意解除することができ、それに応じなければ罰則規定があります。
なので、同人AVを制作する場合注意しなければいけないのは、AV新法への理解もそうですが、何より出演してくれる女優さんとの関係性です。
関係性が希薄、あるいは悪ければ、女優さんの都合で即座に契約解除を請求されてしまうので、しっかりと関係を構築してから撮影をすることをおすすめします。

AV新法にまつわる逮捕者も既に出ています。
今年長崎県で摘発された例では、撮影内容の契約書と説明書を交付していなかったためあえなくお縄となりました。
参考: AV新法違反疑い男逮捕 長崎県内初摘発、出演契約書を不交付

もちろん知らなかったでは済まされませんし、同人AVだからといって免責されることはありません。
AV新法に関する出演契約書と説明書は、当事務所にご依頼いただければ作成できますが、ネット上でいくつか書式が出回っていますので、そちらを使うのもありです。
先ほども少し紹介したXCREAMさんの書式は弁護士が監修しているだけあって、完成度が高いので、ぜひご活用ください。
参考: 【AV新法に関連する出演契約書等の参考ひな形を作成しました。】

おわりに

同人AVを制作する場合AV新法は必ず理解していなければなりません。
同時に、同人AVを制作して配信する場合は「映像送信型性風俗特殊営業」の風営法に関する届出を出す必要があります。
その届出の手続きは当事務所で代行していますので、必要であればぜひご依頼ください。