2025年5月20日に風営法の改正がありました。

法律の改正には規制強化と規制緩和の2つがありますが、今回はがっつり規制強化。
法改正の条文を読んだとき、「ここまで一気に厳しくなるの」と震撼したものです。それだけ警察の本気を感じる内容でした。

その背景には悪質なホストクラブの存在があります。

恋愛感情を抱かせてお金を使わせ、お金が払えない女性には風俗店を紹介するなどのホストの行為を警察は問題視しており、そうしたホストクラブの行状を改善しようと、今回風営法の改正案が閣議決定しました。

しかし、法改正の内容を読むと、ホストクラブのみならず、風俗営業全般への規制強化なので、「うちはキャバだから関係ない」とはなりません。

それでは具体的な風営法改正の内容を見てみましょう。

ざっくり風営法改正の概要

今回風営法改正の概要はざっくり以下の4つ。

1.接待飲食業の遵守事項・禁止行為の追加
2.性風俗店によるスカウトバックの禁止
3.無許可営業に対する罰則の強化
4.風俗営業からの不適格者の排除

今回の風営法改正はてっきり違法なことをしている事業者だけが影響を受けるかと思っていましたが、1の「接待飲食業の遵守事項・禁止行為の追加」のように、適正に営業をしている事業者も一定の影響があるので注意が必要です。

それでは一つずつ解説します。

1.接待従業者の遵守事項・禁止行為の追加

風俗営業1号に以下の遵守・禁止事項が追加されました。

遵守事項

まず以下が遵守事項になります。

・料金に関する虚偽説明
・客の恋愛感情につけ込んで飲食等を要求すること
・客が注文していない飲食等の提供

料金に関する虚偽説明は説明するまでもないですが、例えばホストクラブなどが「1時間2000円から飲めますよ」と説明しておきながら、実際は1時間5000円だったというのはNG。

客が注文してない飲食等の提供をするのもダメ。

ここらへんは当然ですが、「客の恋愛感情につけ込んで飲食等を要求すること」もNGとなりました。
端的に言えば色恋営業をしてはならないということ。

具体的には、以下の行為をしてはならないとされています。

・客が遊興または飲食をしなければ、キャスト(ホストやキャバ嬢)と関係性が破綻すると告げること
・キャストが降格、配置転換その他業務上の不利益を回避するために、客が飲食または遊興をすることが不可欠だと告げること

状況としては、客がキャストに恋愛感情を抱いており、キャストも客が自分に恋愛感情を抱いていることを知りながら、客を困惑させ遊興または飲食をさせることをNGとしています。

例えば、ホストが客に対して、「◯◯ちゃんが今日シャンパン入れてくれないと、俺ノルマ達成できないから、もう◯◯ちゃんと関係を維持できないかも・・・」などの営業方法。
客の恋愛感情をうまく利用し、飲食等をさせるホストのよくある営業方法ですが、これは原則NGとなりました。

私個人の感想としては、ホストクラブやキャバクラは疑似恋愛を楽しむ場だと思っているので、こうして明確に色恋営業を禁止されてしまうとかなり厳しいのではと考えあぐねてしまいます。

禁止行為

遵守事項の次は禁止行為。
以下が禁止行為と指定されました。

・客に注文や料金の支払等をさせる目的での威迫
・威迫や誘惑による料金の支払等のための売春(海外売春を含む)、性風俗
店勤務、AV出演等の要求

客を脅したりして料金を請求するなどの行為は明確に禁止。
そして、料金の支払いをさせるために売春させたり、性風俗店をあっせんしたり、AV出演強要も完全に禁止となりました。

これは、実際にホストクラブの利用で大量の売掛金(ツケ払い)を抱える女性客が、支払いに窮して性風俗店への就労を余儀なくされたケースが散見されたことによる規制です。

ホストクラブの売掛金問題は、様々なメディアで取り上げられた結果、社会問題に格上げされ、警察が本腰を入れて悪質ホストクラブを排除するために、今回の改正で性風俗店のあっせんやAV出演を禁止する内容を入れ込んだのでしょう。

実際、警察は「悪質ホストクラブ対策について」という題目で啓発ポスターまで作成しています。

警察庁より引用

上記の禁止事項は風俗営業1号が対象ですが、実質的にほぼホストクラブが対象と言えるでしょう。

罰則も設けられており、当該禁止行為を行なった場合は6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科されます(第53条)。

2.性風俗店によるスカウトバックの禁止

デリヘル、箱ヘル、ソープランド、ピンサロなどの性風俗店はキャスト確保のために、スカウトに女の子を紹介してもらい、その報酬としてスカウトに紹介料を払う、いわゆるスカウトバックが業界の慣習として存在しました。

今回の法改正でこのスカウトバックが完全に禁止となりました。

そもそも、スカウトが女の子を性風俗店に斡旋する行為は職業安定法で規制されていましたが、性風俗店自体には規制が及んでいませんでした。

そこで今回の法改正で、お店側にも規制を課しスカウトバックを封じ込めることによって、スカウトとお店側両方に規制の手を回した格好です。

なお、規制から逃れるために紹介料という形ではなく「広告料」という名目にしても無意味ですし、別法人を使って紹介料を払うのもダメです。

条文上では、「当該紹介をした者又は第三者に対し、当該紹介の対価として金銭その他の財産上の利益を供し、又は第三者をして提供させてはならない。」とあるので、名目に問わず、実態ベースでスカウトバックかどうかが問われます。

スカウトバックの罰則は、6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科されます(第53条)。

3.無許可営業に対する罰則の強化

特に私が今回警察の本気を感じたのが、風俗営業の無許可営業に対する罰則金の引き上げです。

これまでは風俗営業の無許可営業は、2年以下の懲役、200万円以下の罰金でしたが、これが5年以下の懲役、1000万円以下の罰金に引き上げられました。

さらに法人だと、3億円以下の罰金に引き上げられ、大幅に罰金額が跳ね上がりました。

そもそも風俗営業は巨額のマネーが動くビジネスであり、無許可営業で摘発されたお店の売上額に比して罰金額が小さいという問題がありました。

そうした実情を鑑みて、罰金額が最高3億円にまで引き上げられたのでしょう。
ここまで罰金額が引き上げられれば、無許可営業に対する十分な抑止力になるので、個人的にはとても良い改正ポイントだと思います。

特に深酒の届出を出して営業しているガールズバーや、飲食店営業許可だけで営業しているコンカフェなどが、風営法の定義する接待行為を行なっている場合、風俗営業1号になってしまうため、当該事業者はかなり気をつけた方がいいでしょう。

もし接待行為が発覚し風俗営業1号認定されてしまったら、巨額の罰金が待ち受けています。

なお、私はてっきり風俗営業だけが対象だと思っていましたが、警察庁の通達をよく確認すると「エ 風俗営業又は店舗型性風俗特殊営業若しくは無店舗型性風俗特殊営業に係る営業停止命令等違反」とあるので、デリヘルやソープ等の性風俗関連特殊営業も罰則引き上げの対象でした。

確かに性風俗関連特殊営業だけ除かれる合理的理由もないので、ある意味当然と言えるかもしれません。

4.風俗営業からの不適格者の排除

風営法の4条は風俗営業の許可をしてはならないものを定めていますが、この要件がより厳しくなりました。

これまでは、風俗営業許可が取り消されそうになったら、行政処分が下される前に自主的に許可証を返納し、別法人や別グループなどを使って、別名義で実質的に以前と同じ店で許可を取って営業を再開するという、処分逃れのスキームが横行していました。

これでは処分に何の意味もないので、今回の法改正で欠格事由が拡大され、悪質事業者の逃げ道を完全に塞がれました。

というのも4条の許可をしてはならない者に、「当該許可を受けようとする者の株式の所有その他の事由を通じて当該許可を受けようとする者の事業を実質的に支配し、又はその事業に重要な影響を与える関係に
ある者として国家公安委員会規則で定めるもの」
といった内容が追加されました。

これにより、グループ間、または別法人で許可を取り直そうとしても、親会社等を同じくする関連会社に欠格事由があれば許可を取ることができなくなりました。

わかりやすくいうと、Aという法人が営業許可を取り消されたから、Bという別法人を使って許可を取り直そうとしても、実態ベースでAとBには関連性があると判断され許可が取れなくなります。

そして、「警察職員による立入りが行われた日から風俗営業の許可取消処分に係る聴聞決定予定日までの間に許可証の返納をした者で当該返納の日から起算して五年を経過しないもの」という不許可事由が追加されたことにより、「処分される前に先に許可証を返納しよ!」という処分逃れも通用しなくなりました。

一番怖いシナリオ

新たに追加された不適格者の排除事由で怖いのが、グループ企業で複数のキャバクラやホストクラブなどの風俗営業を営んでいる場合、仮にそのうちの1店舗が許可取り消しとなった場合、その1店舗だけではなくグループ店舗全てが許可取り消しになるリスクがあるということです。

なぜなら、改正条文をそのまま読むなら、いくら会社を分社化しようとも、関連会社と認められれば、一網打尽で欠格事由に該当してしまうためです。

これは相当厳しい処置で、警察の本気度が如実に現れています。

風営法改正の施行日は?

2025年6月28日です。

まとめ

とにかくきつい改正。
故石原都知事の歌舞伎町浄化作戦を彷彿とさせるような厳しさで、風俗営業の根幹が揺らぎかねない大改正だと感じました。

罰金額の引き上げは、そもそも違法なことをしているのだから当然だと思いましたが、色恋営業の禁止などは基準が曖昧であり、事業者は対応に四苦八苦することでしょう。

前述したとおり、キャバクラやホストクラブはある種疑似恋愛を楽しむ場所としても機能しているため、色恋の要素を完全に排除したとき、果たして風俗営業の形はどのように変容していくのかがイメージできません。

私はどちらかというと性風俗専門の行政書士なので、その観点でいうと、今回の風営法改正で性風俗関連特殊営業が影響を受けるのは、スカウトバックの禁止と無届出営業のみなので、影響は微少ですが。

【参考にした資料】
警察庁/国会提出法案
参議院/風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律の施行等について(通達)